所長挨拶

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青山学院大学総合研究所所長 菊池 努

 青山学院大学総合研究所長の菊池努です。私は国際政治経済学部の国際政治学科で過去二十数年にわたりアジア太平洋の国際関係論の教鞭をとってきました。総合研究所ではこれまで社会科学部長や副所長として研究所の仕事のお手伝いしてきました。

 青山学院大学の総合研究所は2018年に創立30周年を迎えました。この30年間に世界も日本も、そして青山学院も大きく変わりました。創立後まもなく冷戦が終結し、「ポスト冷戦」の世界では、民主主義と市場経済が世界に浸透し、かつて激しく対立した東西の融合が実現するとの展望が語られました。しかし今日、権威主義的な国家が台頭し、経済発展には権威主義の方が効率的だとの主張も見られます。市場経済への疑念も生まれています。国家が経済活動に深く関与する国家資本主義が勢いを増しているかにも見えます。いまや「ポスト・ポスト冷戦」の混沌の時代に入ったとの見方もあります。

 1980年代末にバブル景気に沸いた日本は、その後も不沈空母のごとく世界経済を力強く牽引してゆくかに見えました。しかしバブル崩壊とともに日本は長期の経済的低迷にあえぎ、今なおかつての勢いを取り戻すに至っていません。活気ある日本経済を肌で感じたことのない人々が若い世代の大半を占めています。夢を語るよりも足元を直視せよという「現実主義」が彼らの間で力を増しているかに見えます。

 青山学院ではこの30年間のうちに、キャンパスの再編が進み、いくつも新学部が設置され、また既存の学部が改組されました。青山学院大学は名実ともに総合大学に生まれ変わりました。掛け声倒れであった「国際化」も近年着実に進展しつつあります。

 世界も日本も青山学院大学も変貌する中で総合研究所は、新しい時代の世界や日本の課題に果敢に取り組むべく数多くの研究プロジェクトを支援してきました。特に総合研究所は、総合大学としての青山学院の特性を生かした総合的・学際的な研究を積極的に支援してきました。異なる分野の研究者が切磋琢磨した成果は総合研究所の研究叢書や報告書として刊行され、内外の高い評価を得てきました。こうした研究支援により、ともすれば蛸壺に閉じこもりがちの研究者に多角的、多面的な視野を提供できたと私どもは自負しております。

 第二次世界大戦が終結して70数年、冷戦の終結から四半世紀がたち、世界は再び大きな転換期に入ったようです。国際自由貿易体制など、戦後の世界の発展を支えてきた様々な国際制度への異議申し立てや抵抗が世界のあちこちに生まれています。国際協調の仕組み作り(グローバル・ガバナンス)を達成するのは難しくなっています。

 技術の発展が社会に及ぼす影響も甚大です。AI(人工知能)やロボット技術の発展は、人間と社会の関係を根本から変える可能性を秘めています。サイバーテロのような新しい脅威も出現しています。かつてあるドイツの社会学者が今日の世界を、自分に何ら責任のない事柄で生命や財産が脅かされる「リスク社会」と表現しましたが、科学技術の発展は恩恵や利便と共に新しいリスクを生んでいます。

 大学は社会から孤立して生きることはできません。大学は社会の中でその価値を高めなければなりません。大学の使命は、社会が直面する多様な問題の解決に貢献する研究を主導し、次の時代の有意な人材を教育することにあります。総合研究所は小さな組織ではありますが、転換期の世界と日本社会が直面する課題の解決に、小さくとも意義のある貢献をする研究を今後とも支援してゆく所存です。皆さまからのご支援を心よりお願いする次第です。